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相模原の家

長屋

担当:青木弘司、角川雄太、高橋優太
所在地:神奈川県相模原市
構造・規模:木造2階建て
敷地面積:229.63㎡
建築面積:104.75㎡
延床面積:120.94㎡
設計期間:2018.8ー2019.5
施工期間:2019.6ー2020.2
構造設計:RGB STRUCTURE
不動産コンサルティング:創造系不動産
環境解析:中川純
施工:栄伸建設
写真撮影:永井杏奈


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世界のフレーミング
眼前に広がる事物や現象の総体としての世界は、実に複雑怪奇であり、その構造を理解するのは容易ではない。しかし、理解することを諦めた途端に、人間の生の実感が失われてしまうのではないかと危惧している。建築の実践を通して、世界の成り立ちの一端を解き明かすようなフレームを提示したい。そして、そのフレームから既知の風景を見つめ直すことで、人間の生きる意欲を再び世界に繋ぎ止めたいと考えている。
敷地を訪れたときに、道路から離れているためか、旗竿敷地に特有の静けさと、空の大きさが印象的だった。敷地は街区の奥に位置しながらも、隣家の庭や駐車場に面していることから、意識が境界線を越えて隣地まで繋がっていくような感覚を抱いた。敷地の特性を維持しながら、夫婦ふたりのための住宅と、もう1つの住戸(当面は賃貸として貸し出しつつ、将来的には店を開いたり、趣味を活かして近隣に開放できるような場所として想定されている)を備えた2戸の長屋を計画した。まず、敷地の中央に、2つの住戸の界壁を成すヴォリュームを南北軸に沿って配置した。その周囲に、間口一間の切妻屋根の2層、ヴォールト屋根の2層、少し地下に潜った扇型の平屋というように、3つのプロポーションの異なる小屋を境界側に寄せて建て、それらに取り囲まれた場所を覆うように屋根を掛けて、各住戸の居間とした。各居間からは、小屋の隙間から隣地まで視線が抜けていき、高さを抑えた屋根の上には大きな空が広がる。
界壁を成すヴォリュームは、モルタルを掃き付けた特徴的なテクスチャを湛え、プランニングの要求に応じてアルコーブやニッチを付け足し、キッチンやソファを設えて、その輪郭を崩していった。さらに、構成のレトリックから導かれる操作(たとえば、内外を貫通する壁面にサッシの枠を飲み込ませるというような、ディテールを消していくことによる構成の純化)を避け、一見すると、その根拠を認めることができないような、家具のようなスケールのオブジェクトを各所に配し、複数のマテリアルを慎重に重ね合わせることで、構成の輪郭をも曖昧にしようとした。
改めて近隣の建物を観察すると、非合理なモノの取り合いや、ある種の共同幻想によって支えられているようなマテリアルの組み合わせがあり、世界は実に曖昧模糊としている。「相模原の家」では、この複雑な世界に歩調を合わせるように、周囲に見られる雑多なシーンを断続的に再現したり、ありふれたマテリアルの肌理を誇張して表現しながら、室内外の仕上げの区分やディテール、モノの並べ方を調整したのだ。そのようにして、やや過剰に設えられたインテリアから臨む近隣の光景が、こちらに手繰り寄せられたものとして、より具体的に把握されることを意図した。
室内から周囲の風景を見たとき、あるいは、駅からの道すがら目に触れる風景の中で、この家を媒介にしながら、世界の成り立ちを想像し、見慣れた風景を対象化する。建築を介した世界のフレーミングによって、何気ない日常に主体的に価値を見出すことによって、この世界を自分たちの手に取り戻すことができるだろう。