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Works

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水戸の美容室

美容室

担当:青木弘司、高橋優太、
駒井慶一朗
所在地:茨城県水戸市
構造・規模:木造2階建て
敷地面積:294.33㎡
建築面積:99.64㎡
延床面積:119.04㎡
設計期間:2021.7ー2022.8
施工期間:2022.9ー2023.3
構造設計:平岩構造計画
施工:清水建設
写真撮影:山岸剛


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場所の特異点を浮かび上がらせる造形

茨城県水戸市の美容室の計画である。敷地は交通量の多い県道に面し、東側には江戸末期に建てられた庄屋の居宅がある。この土塀に囲まれた茅葺きの平屋との関係から外形の可能性を探った。前面道路側からは、量感のある寄棟屋根が土塀に切り取られて見える。この特徴的な近傍の現れ方に直截に応答するような建ち方が良いと考え、前面道路と隣地境界線に寄せて壁を設けながら、平行四辺形の平面の輪郭線を定めた。この鉄筋コンクリートの壁は建物の基礎であり、同時に隣家の土塀と連なって見えるように、高さ方向と厚さを断続的に変えながら、それ自体が自律するようにした。それから、平面の対角線を結ぶように現場打ちの鉄筋コンクリートの十字型の梁を設け、その交点を避けた位置に断面寸法の異なる独立柱を配した。さらに、隣家の茅葺き屋根と呼応するように、十字型の梁の上部に異形の三角屋根のボリュームを浮かせつつ、建物全体の高さを抑えることで、プログラムなどの与件の整理やプランニングに先駆けて、沈静化した場所の有りようを浮かび上がらせるようなオブジェクトが立ち上がった。
このオブジェクトの成り立ちに対して、美容室としての店舗の構成は簡潔明瞭である。まず、東西に大きくエリアを分け、それぞれにシャンプー台とセット面を並べて、前面道路に面する北側にバックルームなどの裏方のスペースをレイアウトした。このプログラムに裏付けられた平面計画を成立させるための間仕切り壁や階段、美容機器や各種ツールを収納する造作家具類、日射の施術への影響を考慮して限定的に設けられた開口などの要素は、いずれも機能的な要求に従って位置が定まっていて、十字型の梁や独立柱といったオブジェクトの配置との直接的な対応関係はない。空間の認識は、平面計画には委ねられず、前景化するオブジェクトの幾何学に先導されていく。そのような空間の力学に導かれるように、あらゆる部位には、その根拠を容易に見出すことができないような造形が施されている。たとえば、間仕切り壁は天井に達することなく自立しているが、その振れ止めとして円筒形の小さなボリュームが添えられていたり、セット面の照明器具は、やや大振りな吊り金物と組み合わせて、L字型の光のラインが反復するように設置されている。さらには、設備配管のために部分的に設けられたフカシ壁も、場所毎に仕上げの種類を変えつつ、十字型の梁と均衡するように見えがかりを調節している。外壁の開口廻りは、サッシの開口寸法に縛られずに室内の石膏ボードの端部の位置を設定しながら、開口のプロポーションを微調整している。この大小さまざまに展開する造形によるデフォルメのような表現は、各部位が機能性や構造的な合理性などの単一的な意味を帯びることを拒み、認識の振れ幅を広げ、撹乱するような役割を担っているが、十字型の梁や平行四辺形の平面といった幾何学によって、その読解が駆動し、認識の拠所をインテリアのみならず、近傍の場所の質へと押し広げていく。掴みどころのない風景が広がる郊外で、建築の内外に偏在する造形によって場所の特異点を炙り出すことで、この場所に持続的に関わりながら生きる主体性を喚起したいと考えた。