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我孫子の家

戸建て住宅のリノベーション

担当:青木弘司、角川雄太
所在地:千葉県我孫子市
構造・規模:木造2階建て
建築面積:73.70㎡
延床面積:126.69㎡
設計期間:2015.6ー2015.11
施工期間:2015.12ー2015.6.4
環境解析:中川純
収納家具製作:浅子佳英
施工:Beans
写真撮影:永井杏奈


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簡素な緻密さが世界を変える
雛壇造成された敷地から自然豊かな手賀沼を一望する住宅。明るく眺望の豊かな南側に対して、北側は擁壁によって閉ざされ、キッチンや浴室などの水まわりは、風通しも悪く、北側は日中でも照明を点けないと薄暗いような、決して快適とは言えない状態だった。
この場所の年間の風向などを調べ上げ、夏場には太平洋から利根川に沿って南東側から吹き込む風を効果的に室内に取り込むことができるように開口部の位置を再設定した。建物の中央に設けた吹抜を介して北側から風が抜けていくように、立体的な空気の通り道をつくりたいと考えた。排熱用に新設したトップライトは、1階北側の採光窓も兼ねている。

このような全体計画の中で、まず、風と光の通り道を表象するように、吹抜回りの床や壁、天井などを一様に白く塗り込めた。真っ白く仕上げられることで、日常の雑多なモノも背景に馴染むことなく、いつまでも手付かずの状態のまま放置されるようにしている。たとえば、下地を現し、素地のまま設えた部分に比べて、家具や雑貨などをレイアウトするときに、どこか遠慮してしまうような、住み手の潜在意識を喚起しようとした。生活から少し距離を置いた、他者のための場所を用意したのだ。

そして、室内ドアの一部を移設することで、新たに通風口としての役割を与え、既存のサッシにはポリカーボネートの内窓を増設し、欄間には新たに引戸を設け、既存の吹抜には手摺と床を兼ねた開閉蓋を新設するなど、可動する部分を付け足した。季節に応じて建具や床、壁の一部を開閉させることで、住み手が自ら通風や空調の区画を緩やかに制御できるようになっている。住宅の中に手の触れる部分を増やしてくことで、住み手の日々のふるまいによって、多様なシーンが立ち現れるようにした。

造作した建具や照明器具、階段や家具などは、可能な限り即物的で簡素なディテールとした。ありふれたモノの素人仕事の集積のように感じられるように部材を選定し、徹底的に寸法やプロポーションを調整した。また、柱や梁、床や天井などの下地を現し、塗装で仕上げた部分は、その下地のクロスのエンボスや、和室の土壁や木部の肌理が、適度に浮き上がるように整えつつ、あらゆる部分が見えるように設えて、モノとモノの組み合わせの仕組みを感覚的に理解できるようにしている。

これらの緻密な操作は、いずれも「空間の成り立ちを知り、自ら手を加え、持続的に空間に関わることで、身の回りの世界を変えていく」という、ある種のDIYの精神を掘り起こす。このような広義のDIYは、既存の部分も新たに付け加えたモノも、自分の手で直接つくり出したモノも、ありふれた身近なモノも等価に扱い、それらをブリコラージュのように再編することによって、錬金術のように日々の活力を生み出していく。
広域の環境と建築の細部の間に、人間の主体性が立ち現れるような、開かれたリノベーションのあり方を模索した。