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Works

ワークス

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伊達の工場と店

就労継続支援施設
(パンの工房と店舗)

担当:青木弘司、駒井慶一朗、
矢舗礼子
所在地:北海道伊達市
構造・規模:木造2階建て
敷地面積:805.76㎡
建築面積:123.29㎡
延床面積:214.57㎡
設計期間:2020.8ー2021.8
施工期間:2022.9ー2023.3
構造設計:Rise international
施工:須藤建設
写真撮影:山岸剛


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既知の社会に依拠しながら、未知の世界を現出させること

北海道伊達市に計画された、パンの工房と店舗を併設した知的障がい者のための就労継続支援施設である。計画が始まったのは、2020年8月であるが、翌年春の実施設計完了後に具体的な工事費を想定しつつも、補助金の申請から採択までには一定の期間を要した。昨今の資材価格の高騰の影響もあり、当初の積算内容の信憑性は不確かであり、採択後も円滑に事業を進行させるためには、工事費の調整代を予め計画内容に盛り込む必要があった。
敷地の東側は交通量の多い国道に面していて、ガソリンスタンドなどの典型的なロードサイドショップが建ち並んでいるが、西側は長閑な畑や住宅地と接している。このような対比的な周辺環境に加えて、敷地の西側には、かつての建屋の基礎が放置されていたが、施主からは、その基礎を残しながら計画して欲しいという要望もあった。さらには、計画の初期段階から、施設のコンテンツとしてガーデンを整備したいという思いも語られていた。
以上の条件を俯瞰した時に、必要諸室のうち、パンの工房や事務室、トイレや更衣室など、利用者が限定され、合理的なプランニングが要請される諸室を国道側にレイアウトし、パンの店舗や食堂、インナーガーデンなどの、不特定多数の人が利用し、さまざまな使われ方を許容する諸室を住宅地側に配しながら、東西それぞれのパートに異なる形態を与えつつ、それらを背合わせにした構成が浮かび上がってきた。
東側は、過度なサインや装飾的な要素を一切排除した、金属板で覆われた簡浄素朴な箱型であり、近隣のロードサイドショップとの差異化を図りつつ、補助金の断続的なスキームに抗うコストの調整弁としての役割をも担っている。これに対して、西側は、異形の軸組を現しにしながら、既製品のサッシやポリカーボネート板などの汎用品を、あたかもセルフビルドのように継ぎ合わせたマンサードの屋根型であり、そのボリュームの半分ほどが風除室になっている。今後も変化していく欲求を下支えするために、おおらかで自由な振る舞いを喚起する場所として位置付けられている。この相対的に大きな風除室を既存の基礎の直上に重なるように配置して、基礎に掛かる荷重の負担を抑えるように調整しながら、基礎の懐をイートインスペースとして内部化し、2層に吹き抜けた風除室を介して動線や視線が立体交差するように階段を設けることで、ありふれた郊外のフラットな風景を対称化している。今後は基礎の周囲の高低差を利用してガーデンを設えて、国道側の喧騒から隔絶された、ひっそりと佇む、秘密の庭のような場所になる予定である。
経済合理性を批判的に捉えたかのような簡潔な箱型も、一見すると寒冷地の慣習を踏襲したかのような異形のマンサードの屋根型も、ともに特異な現れ方ではあるものの、あらゆる条件を受け入れつつ、それに抗うような切実さから導かれた形態である。建築は、複雑に絡み合った条件を効率的に読み解いた結果の産物ではない。解法の道筋の直截な表現は、誰の目にも明らかで、分かりやすい共感を呼び込むが、同時に、反感を排除するような同調圧力に加担することににもなりかねない。ともすると、たんに道徳的な正しさに迎合することになるのではないだろうか。
建築は、既知の社会に依拠し、さまざまな問題に真摯に向き合いながらも、多様な解釈を受け入れ、曖昧で、無根拠であることを退けることなく汲み取ろうとする葛藤から生まれる、ある種の抵抗の表象として立ち現れるべきであろう。それゆえに建築は、固有の形態を召還し、あり得べき未知の世界を現出させるのだと考えている。