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ニセコの家

戸建て住宅

担当:青木弘司、芝美菜
所在地:北海道虻田郡
構造・規模:木造2階建て
敷地面積:408.00㎡
建築面積:112.62㎡
延床面積:190.65㎡
設計期間:2018.3ー
施工期間:2017.6ー
構造設計:Rize international
施工:セルフビルド
写真撮影:山岸剛


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つくりながら暮らし、暮らしながら考えること
構造設計者の建主とは「伊達の家」の現場で知り合い、よく連絡を取り合っていた。ある日、建主が東京に出張した際に、ニセコで土地を購入したので、セルフビルドで家を建てたいという話を聞き、その主体的な生き方に惹かれて、私も設計者として参加することになった。2018年3月のことである。
建主は元大工で、自ら線を引き、つくることができる。大工仕事に限らず、樹木の伐採から基礎のコンクリートの打設、浄化槽の埋設に到るまで、大工一筋、御年77歳の父上と二人三脚で、あらゆる工事が進められた(詳しくはデータシートを参照していただきたい)。
既存の樹木を伐採・抜根し、主要な木材は構造材としても使用できるように、一年間この敷地で寝かされた。端材はストーブの薪としてストックする。そして、廃材を集めて作業小屋を建て、もともと所有されていたキャンピングトレーラーを停泊させて、いわゆる現場事務所のような体裁も整った。あらかじめ温泉が引かれた敷地には、露天風呂のためのドラム缶が持ち込まれた。設計者として関わり始めたのは、この頃からである。
建主は、あらかじめ方眼紙にシングルラインの住居のプランを描いていて、そのプランをもとに具体的な打ち合わせが始まり、往復書簡のように何度もメールを交わしながら設計を進めていった。そのなかで、住居の北側に風除室を建てるよう提案した。無理を言って建方を2回に分けていただき、あとから風除室を増築したような建ち方になった。風除室は大きな納屋のような佇まいで、スキー用具や作業道具の収納、食料の備蓄、建主の仕事場として使用される。
さらに、敷地内に横たわる丸太を眺めながら、構造材として利用する可能性を検討し、結果として住居の中央に3本の丸太の柱が象徴的に立ち現れる構成になった。丸太は風除室の梁としても使用されているが、隣接する箇所にはストローグの金物を用いた張弦梁を採用するなど、アドホックな架構となっている。風除室にはツリーハウスのような木製階段を設置する計画になっているが、現在は荷揚げ用のリフトで代用されている。
このようにして、2019年10月、本格的な冬が到来する時期に合わせて外壁や屋根、サッシ工事を終わらせて、建主は一旦住み始めることにした。それ以来、仕事と並行して週末に内装工事を進めながら、キッチンを設え、ユニットバスを組み立てて、逞しく、そして楽しく生活されている。生活する上でのさまざまな工夫は、計画内容にフィードバックされ、その都度、遠隔の打ち合わせが進められている。
今後は風除室の北側に白く塗装した単管とポリカーボネートの折板を組み合わせたカーポートを建て、住居の南側にはテラスと薪置き場、さらには白樺の木立を望む物見台のような露天風呂を設える予定である。さらには、風除室内の建主の仕事場の壁には、ポリエステル系の透光性のある断熱材を充填し、室内の壁はポリエチレンフィルムで仕上げる予定だが、どのように実現するのかは、設計者の私にも不明である。
敷地内には、もはや資材とは呼べないような雑多なモノも含めて、ざまざまな材料がストックされている。それらをブリコラージュするようにして、この場所で生きるための知恵が体系づけられ、計画内容が更新されていくことが容易に想像される。
計画すなわち予定調和を正とする世界から隔絶された、不確かで偶然性に満ちた世界が、ここでは立ち現れているのだ。
たしかに、この〈ニセコの家〉では、私は計画する主体としての設計者ではなく、設計することを通して建主の生を観測しているような気がする。建主は、つくりながら暮らすことで、生の実感を育み、暮らしながら考えることで、持続的に空間を実践する。私は観測者として、これからも建主の生を描き記すのだ。